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キュルケとタバサは、 ルイズがレビテーションも使わずに見事地表に到達してみせたことに対して、 激しく引いていた。 2人とも何も口にせず、 ただシルフィードがバッサバッサとはばたく音しかしない。 「……………………」 「……………………」 おそらく、考えていることは一緒なのだろうが、 それを口に出すのは、何というか ……とてもルイズに対して失礼な気がして、憚られた。 しかし、その気まずい沈黙をキュルケが破った。 「………………ねぇ」 「…………………?」 「人間って、こんな高い所から飛び降りても、 動けるんだ………」 「………………さぁ」 下ではルイズが、 ゴーレムをあっさりと倒したDIOと何やら話をしていた。 これからフーケを拘束する手順でも確認しているのだろうか。 そう思い至ったら、今まで呆けていたキュルケの心に、 メラメラと自尊心の炎が燃え上がった。 自分達は、ほとんど何もしてない。 ルイズを助けるためにゴーレムと一戦したが、 ほんの3、4合だけ、交えただけだ。 これではまるで、ルイズ…ヴァリエール家とDIOが主役で、 自分たちは引き立て役みたいに見えはしないか。 そんなこと、ツェルプストー家の血を引くキュルケが 許すはずがない。 ゴーレムを失ったとはいえ、 フーケはまだやられてはいないだろう。 イタチの最後っ屁くらいのことはする可能性が十二分にある。 それなら、自分たちがそこをやってしまえばいい。 ルイズよりも先に、フーケを捕らえるのだ。 何だか横取りするみたいだが、 それはツェルプストー家とヴァリエール家では日常茶飯事だから問題ない。 フーケを捕まえれば、美味しいところも取れるし、 フーケに対する意趣返しにもなるし、 何よりルイズはさぞ悔しがるに違いない。 油揚げをさらわれて、 顔を真っ赤にして地団太踏むルイズを想像して、 キュルケはウキウキしてきた。 善は急げと、キュルケはタバサに話しかけた。 「タバサ、私たちも降りるわよ!! ヴァリエールなんかに手柄を独り占めさせてたまりますかってぇの! GOよ、GO!」 バタバタと急かすキュルケに、タバサは普段と変わらない無表情で頷いた。 タバサ自身もそうするつもりだった。 今、あの2人をフリーにしておくのは、危険だと思ったからだった。 タバサの脳裏に、ブルドンネ街での出来事がフラッシュバックした。 (無駄無駄…) あの時のルイズの威圧感に、 珍しくタバサは逃げの一手を打った。 自分たちの知らないところで、 何かとても恐ろしい事が進んでいるのではという不安が、グルグルと渦を巻く。 目の前でやきもきしているキュルケは、 ルイズに対する対抗心や、功名心でフーケと戦おうとしているが、 それに比べて、ルイズはどうだろう。 名誉だとか、貴族としての誇りだとか ……そんなものよりも、もっと俗っぽくて、 大きな野望の為に杖を振るっているような印象を受けた。 その姿勢が微かに自分と重なって、 タバサはルイズに対して、奇妙な親近感も覚えていた。 タバサはシルフィードに、降下の指示を出した。 シルフィードがきゅいと主に応じて、ゆっくりと高度を下げていく。 半分ほど下がったところで、キュルケが疑問の声を上げた。 「……あら、ルイズの使い魔がいないわ。 どこ行ったのかしら? トイレ?」 ……………いない? それを聞いて、ゾワッと身の毛がよだつ感覚が、 タバサを包んだ。 今まで積んだ経験が、やかましく警報を鳴らす。 このまま降下することは、非常にマズいことだと直感で確信し、 タバサは1も2もなく上昇の指示をシルフィードに出した。 シルフィードは忠実に主の命令に従って、下降を止めた。 ――――しかしそれも失策だった。 一時的にだが、シルフィードの体が低空で停止してしまったのだ。 「失礼、お嬢様方」 突如、その場にはいないはずの、 第三者の声がして、2人は弾かれたように後ろを振り向いた。 ルイズがいなくなったことで出来たスペースに、 1人の男が腰を掛けていた。 脚を組んで、綺麗な紅い瞳で2人を見つめているその男は、DIOだった。 いつのまにか、そしてどうやってか、シルフィードに乗り込んでいたのだ。 いきなり積載人数が3人に増えたことに驚いたのか、 シルフィードの体は硬直してしまった。 DIOが瞬間移動らしき技を使える事は、 2人は先ほどのゴーレムを見て重々承知したが、 こうして音もなく背後に迫られると、改めて脅威を感じざるを得ない。 しかし、彼は現在ルイズの使い魔であり、 自分たちサイドであるはずだ。 まさか襲ってくるなんてこと、 あるはずがない………。 DIOに対する恐怖が、そのまま微かな甘えにつながり、 キュルケに間違った行動を取らせた。 キュルケは少々キョドった調子でDIOに話しかけた。 「な………何か用なわけ? あんた、御主人様を1人きりにしちゃ 危ないんじゃないの?」こっそりと距離を取りつつそう言うキュルケに、 DIOは静かに笑って、立ち上がった。 風竜の背中は、凹凸があってバランスが取りにくいにもかかわらず、 身じろぎすることなく、しっかりと両足で立っている。 その腰には、デルフリンガーが下げられているが、 鞘に入れられていて、沈黙を保っている。 ブロンドの髪が、風に吹かれてフワフワ揺れる。 キュルケを見下ろすDIOは、 キュルケから視線を外さずにゆっくりと背中に手を回して……………… "ズジャラァアァア!!" と、どこからともなくナイフの束を取り出した。 まさに魔法のズボンだ。 ジャラジャラと金属の擦れる音を鳴らせながら、 これ見よがしにナイフを握った手を揺らすDIOを見て、 キュルケの顔から、一気に血の気が引いた。 「あ………………まじ?」 その光景に、かつての決闘の折りのギーシュの末路が連想され、 キュルケはゴクッと唾を飲み込んだ。 「突然で不躾だが…私と一曲お願いできるかな、 ミス?」 フフフ…と妖しく微笑む様は、一見冗談めかしたようにも思えるが、 放つ殺気が、これは冗談ではないということを 雄弁に物語っている。 突如牙を剥いたDIOに、 キュルケはすぐさま杖を向けようとしたが……それよりも先にタバサが動いた。 タバサが高速で詠唱を行い、杖を振っていた。 次の瞬間、質量を持った風がキュルケ越しにDIOを襲い、 DIOはシルフィードの上からドカンと吹き飛ばされた。 「エア・ハンマー……!」 空中に投げ出されたDIOが、木の葉のように落下していく。 タバサはそれをじっと眺めていた。 「…ありがと。 助かったわ」 しかしタバサはキュルケに答えなかった。 下の森へと姿を消してゆくDIOを見て、 タバサは周囲に視線を巡らせる。 果たして、森へ墜落したはずのDIOが、2人の目前の宙に浮かんでいた。 瞬間移動だ。 気付いたと同時に2人ともが詠唱を行うが、 DIOはそれを許さなかった。 「視界が効くからな……空にいられては困る。 そら、そんな魔法より、 レビテーションとやらを唱えた方がいいぞ」 からかうように忠告をした後、DIOが軽く手を振った。 DIOの体から『ザ・ワールド』が浮かび上がり、 シルフィードの顎を強打した。 鋼鉄をも粉砕する『ザ・ワールド』の一撃で 脳をシェイクされたシルフィードは、白目を剥いて気絶した。 今度は、キュルケ達の方が木の葉のように落下する番だった。 2人とも大慌てで自らにレビテーションをかけ、 そのあと、タバサがシルフィードにもレビテーションをかけた。 ゆっくりと地面に降り立った2人は互いに背合わせに構え、 隙をなくす。 すると、時間的にはまだ宙にいるはずのDIOが、 木の陰から姿を現した。 不可解な現象を疑問に思う暇もなく、 2人は攻撃魔法を詠唱した。 最初に詠唱が完成したキュルケの『フレイム・ボール』が、 唸りをあげてDIOに飛来した。 しかしDIOは、飛んでくる炎の玉を避ける仕草すら見せず、 パンパンと手を二度打った。 すると、炎の玉がDIOの体をすり抜けた。 DIOが一瞬で2人の方へと移動したからだ。 炎の玉は、虚しく空気を裂きながら、 森の奥へと消えていった。 キュルケはその光景に唖然としたが、 惚けている暇などもちろんない。 「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ ハガラース……」 再び詠唱を始めるキュルケの隣で、 タバサが呪文を完成させて、杖を回転させた。 大蛇のような氷の槍が何本も現れ、 回転を始め、太く、鋭く、青い輝きを増していく。 「"氷槍(ジャベリン)"!!」 タバサの声と共に、トライアングルスペルであるジャベリンが、 DIOに襲いかかった。 それを見て、DIOは手を軽く振る。 『ザ・ワールド』が、DIOの体から浮かび上がり、 両の拳の壮絶なラッシュで、ジャベリンを迎え撃った。 「えぇい、貧弱!貧弱ゥ!」 拳と氷の槍が交差する。 『ザ・ワールド』によって亜音速で繰り出される拳の弾幕は、 ジャベリンを1本も後ろに通すことなく、 その全てをガラスのように粉々に砕いた。 トライアングルスペルが真正面からあっさりと破られ、 流石のタバサも動揺を隠せない。 攻撃の手が緩まったその一瞬の間をとって、 DIOがタバサに話しかけた。 「面白い魔法だ。 お前のような攻撃をする者を、私は1人知っている。 ………死んだがね。 もちろん私が殺した。 お前もあいつのようになりたいかな?」 タバサは聞こえない振りをした。 今や敵となったDIOの言葉など、聞くだけ無駄だと思ったからだった。 すぐに次の魔法を唱え始めるタバサだったが……… 「…やはり君は彼に似ている。 彼もそうだった。 心にぽっかり穴が開いていて、 決して満たされることがない。 心から望むものを、手に入れていないからだ。 ………違うかな?」 DIOの、心の隙間をつく言葉にタバサの詠唱が止まった。 ピンで止められたみたいに、 タバサは微動だにできなかった。 「私はそれを君に与えてやることができる。 …教えてくれ。 お前が欲しい物は……何だ?」 ―――私が、欲しい、物…………。 タバサはDIOの目を見た。 優しげな紅い瞳が、タバサを見返した。 その慈愛に満ちた眼差しに包まれて、 タバサは微かな安心を感じ始めてしまっていた。 まるで、母に抱きしめられているような安らぎを。 この人なら…………… 私の望みを叶えてくれるのではないか…? そう考えてしまうほど、 DIOの言葉は不思議な魅力に溢れていた。 ぱったりと攻撃の手を休めてしまったタバサを、 キュルケが叱責した。 「タバサ!! 何やってるの!!!」 キュルケが再びフレイム・ボールをDIOに放った。 しかし、やはりそれは瞬間移動によってかわされてしまう。 戦場で攻撃を躊躇するなど、 普段のタバサではありえないことなのだが、 キュルケの叱責をうけてもなお、 タバサは詠唱を再開することはなかった。 挙げ句の果てに、ぺたんと座り込んでしまい、 考えごとをするように沈黙している。 攻撃するのがキュルケだけになってしまい、 その結果、攻撃の間の隙が大きくなってしまった。 その隙を縫って、 DIOがゆっくりと近づいてゆく。 やろうと思えば、瞬時に距離をゼロにすることだってできるだろうに、 DIOは何故かそれをしない。 まるで時間稼ぎをしているようだった。 しかし、徐々に徐々に距離が縮まっていく様は、 逆にキュルケの神経に負担を掛ける。 それがさらなる隙につながり、ついに2人はDIOの射程圏に入ってしまった。 約8メイル。 まずい、と思う暇なく、 『ザ・ワールド』が現れた。 まさしく幽霊のような、 軌道を読ませない動き方でキュルケに迫った『ザ・ワールド』は、 その拳でキュルケの杖を弾き飛ばした。 「くっ…!」 杖を握っていた手に、鈍い痛みが走り、 キュルケは苦悶の表情を浮かべた。 「杖が無ければ、メイジはかくも無力だな。 我が『ザ・ワールド』の敵ではなかった」 もはや警戒する必要すらなくなり、 DIOはスタスタとキュルケに歩み寄った。 タバサはその傍で座り込んだままだ。 「なんで、いきなりこんなこと………! わけわかんないわよ!!」 理由もなく、突然襲いかかられたことに対する怒りから、 キュルケは怒声を張り上げた。 「残念ながら、私には答える必要がない。 ……雷に打たれたと思って、諦めるんだな」 キュルケの言葉をそう受け流し、 DIOはとどめをさすべく『ザ・ワールド』ではなく、 自分自身の手を振り上げた。 それを見たキュルケは、 直ぐに襲いかかるだろう痛みに備えて、体を硬直させた。 ―――そのとき、遠くから何かが爆発する音が聞こえた。 すると、DIOの左手のルーンがぼぅっ…と怪しい光を放ち始めた。 その光が輝きを増すにつれて、DIOが苦痛に身を捩る。 「……ッ! 良いところで茶々を入れるか…!! ………わかった。 すぐにそっちに行けばいいのだろう、ルイズ」 忌々しげな口調でブツブツと呟きだしたDIOに、 キュルケはただただ狼狽した。 暫くしたあと、DIOがキュルケに向き直った。 「『マスター』が呼んでいる。 残念ながら、ここまでだ。 もう少しだったが……まぁいい、収穫はあった」 チラリとタバサに視線を向けてそう言ったDIOは、 最後とばかりにナイフの束を取り出して、優雅に一礼した。 「途中でおいとまさせてもらう、私なりのお詫びだ。 遠慮なくとっておいてくれ」 DIOはパチンと指を鳴らした。 すると、DIOの姿が忽然と掻き消えた。 キュルケは、いきなりDIOが姿を消した事にも驚いたが、 目の前に広がる光景には更に驚いた。 何と、幾本もの鋭いナイフが、2人めがけて飛来してきていたのだ。 「ひぃぇ!?」 キュルケは情けない悲鳴を上げた。 "ドバァアー!" と、凄まじい勢いで接近するナイフを見て、いつぞやのギーシュのように、 ハリネズミになってしまう自分の姿が想像される。 しかし、そのナイフは2人に到達することはなかった。 キュルケの隣から発生した風の壁が、 ナイフを弾き飛ばしたのだ。 「ウィンド・ブレイク…」 力のない詠唱は、タバサから発せられたものだった。 魔力は精神力。 今、精神的に沈んでいるタバサでは、 いつものような烈風は起こせなかったが、 それでもナイフを弾き飛ばすには十分であった。 ガチャガチャと音を立てて落下していくナイフを見て、 安堵のため息をついたキュルケは、隣に座り込んでいるタバサを見た。 力の込もっていない瞳が、虚空を見つめていた。 タバサの杖が、コロンと転がった。 「タバサ……?」 キュルケの呼びかけに、タバサは虚ろな目をキュルケに向けた。 「………なさい」 「…え?」 「……ごめんなさい」 キュルケに視線を向けてはいるが、しかし、 キュルケではない誰かを見ているような視線で、 タバサはそう呟いた。 キュルケは一瞬、 あのとき詠唱を止めてしまったことを謝っているのかとも思ったが、 どうも違うようである。キュルケはひとまず、タバサに手を差し出して、 彼女が立ち上がるのを助けた。 しかし、立ち上がってからもタバサはただ、 ごめんなさい…と繰り返すだけだった。 それが誰に向けた謝罪なのか、 キュルケにはようとして分からなかった。 to be continued……
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ヴェストリの広場。魔法学院の西側に位置する広場で、日中も薄暗く、それ故に人もあまり寄り付かない。 そんな場所に一人の少女と二人の少年が誰かを待ち受けるように佇んでいた。 少女は広場の中央で腕を組み、少年たちは離れてその様子を伺っている。 「……遅いわね」 「……遅いな」 「……遅いね」 中央で仁王立ちする少女の独り言に、そこから離れて佇む少年たちが答える。 彼女たちは決闘を行なうべく、そしてそれを見守る為に、決闘相手を待っているのだが その相手が一向に姿を現さない。時間だけが緩やかに過ぎていく。 「……来ないわね」 「……来ないな」 「……来ないね」 10分程経過しても未だに相手は現れない。少女は今朝の決闘相手とのやり取りを思い出し、 また無視されたんじゃないかと少し不安になる。 「ひょっとしてさ……」 小太りの少年がボソリと呟き、残りの二人の視線が集まる。 「場所…知らないんじゃないかな?」 「……アンタが連れて来るんじゃなかったの?」 「…知ってると思ったんだ」 少女の質問に被りを振る少年。気まずい空気が流れる。 「使えないデブね」 少女の放った言葉が思春期の繊細な心に突き刺さり、少年は座り込んで嗚咽を洩らす。 人気のない広場に少年の泣き声だけが木霊する。 「オレ……探してこようか?」 広場を包む空気に耐え切れなくなったもう一人の少年が少女に問いかける。 少年の眼から、この場から逃げ出したいと言う感情が溢れ出ていた。 「ダメ。一人にしないで」 普段の横暴さからは到底考えられない言葉を少女が紡ぎ出す。 その眼にはうっすらと涙さえ浮かんでいた。 もう限界だった。 「ここがヴェストリの広場さ」 広場の入り口から聞こえた声。それは悪しき闇を吹き散らす一陣の風。 「ありがとう。助かったわギーシュ」 メイド服を着た少女が、薔薇の造花を持ち泣きはらした顔の少年に感謝を述べる。 少年はそれに手を振って答えると広場の隅に行き、座り込んで再び泣き始める。 その傍には小熊ほどもある大きなモグラが慰めるように寄り添っていた。 「お…遅かったじゃない!!」 「トリッシュ!来てくれたんだね!!」 トリッシュと呼ばれた少女は決闘相手の少女と彼女の主の少年に交互に目をやる。 「……泣いてた?」 「「泣いてなんかない!!」」 殆ど同時に否定し袖で眼を擦る二人。その仕草で泣いていたことは一目瞭然であった。 「ヤッホー!ルイズ来てあげたわよー!」 「キュルケ!アンタなんで来てんのよ!!」 トリッシュたちの後に続いて二人の女性が広場に現れた。 燃えるような赤い髪と、褐色の肌に包まれた豊かな胸の谷間を惜し気もなく見せつける少女と、 透き通る青空のような髪と、雪のように白い肌を持つ少女。 対照的二人。だが、親密な雰囲気が漂う不思議な少女たちであった。 「ちょっとね、向こうがアレなもんだから」 ルイズと呼ばれた少女がキュルケと呼んだ少女の言葉に首を傾げる。 「危険」 青い髪の少女の言葉で尚更訳が判らなくなった。 「と、ともかく!邪魔はしないでよ!!」 「判ってるわ。ちゃんと、負けるところ、見ててあげる」 決闘相手を無視して言い争いを始める二人を見て、トリッシュは一つ溜息を吐くと ルイズの立つ中央へと歩みを進めた。 「遅れて悪かったわね」 近くで聞こえたトリッシュの声でルイズは漸くその存在に気付くと、いつも通りの笑みを浮かべ 嘲りと侮蔑が込められた眼でトリッシュを凝視する。 「てっきり怯えて逃げ出したのかと思ったわ」 「アンタ相手に逃げ出す必要はね~わよ」 ルイズの挑発を意に介さず、トリッシュは逆にルイズを挑発する。ルイズの瞳が怒りに燃えた。 「き、貴族と平民の違いを、ア、アンタの身体に教え込んであげるわ!」 「そのセリフ、聞き飽きたわよ」 頭に血が昇ったルイズが呪文を唱え杖を振り、トリッシュが立っていた場所が爆風に包まれる。 それが開始の合図となった。 「ハズレよ。ヘタクソ!」 トリッシュは魔法が発動する前に横に飛び、爆発を回避してそのままルイズを中心に円を描くように走る。 怒り心頭となったルイズが呪文を唱え、トリッシュの後を追うように爆発が続く。 「逃げてないで戦いなさいよ!この臆病者!!」 ルイズが叫び、広場に敷かれた石畳や広場を囲う壁がルイズの起こした爆発によって穴が開く。 最初は攻撃魔法の呪文を詠唱していたが、どんな呪文でも爆発が起きるので詠唱時間の長い 四系統魔法の呪文を止め、コモン魔法の呪文にルイズは切り替えていた。 コモン魔法の呪文は四系統魔法のルーンを用いた呪文とは違い、唱えるメイジによって違う。 幾つかの、呪文の効果を発揮する為の言葉を入れさえすれば、使用者は各々自由に呪文を 創ることができるのである。 魔法発動の間隔が短くなり、爆発が逃げ回るトリッシュへと徐々に迫る。 しかし、トリッシュは焦ることなく静かな眼でルイズを観察する。 彼女は仲間たちの敵スタンド使いとの戦闘の経験談や、自身の僅かながらの戦闘経験によって、 観察することの重要性を認識していた。 (ルイズの起こす爆発は……銃弾のように『なにか』を打ち出して…それが触れたものを… …爆発させる……その『なにか』が見えないって~のが怖いわね) 例えば炎が襲ってくれば回避や迎撃、防御などの選択肢が生まれるが、なにも見えず感じることもできない ルイズの魔法は、知らなければ防ぎようのない恐ろしい能力である。 事前にルイズのことを知らず、様子見の為に逃げ回ると決めたトリッシュは幸運であった。 「ほらほらどうしたの?もっと早く逃げないと追いついちゃうわよ!!」 向かって来ずに自分の周りを逃げ回るだけのトリッシュを見て、落ち着きを取り戻したルイズが 笑いながら魔法を唱える。余裕ができたのか、命中率も上がり始めていた。 だが、トリッシュは逃げ回るだけ。まるでなにかを待つように――― 「偉そうなこと言っといて逃げ回るだけ?所詮は…う、げほっ!」 トリッシュは、ルイズの精神力(授業で習った)が尽きるか、又は早口で呪文を唱える ルイズがむせて攻撃が途切れるのを、ずっと逃げながら待っていたのである。 体力にも限界がある為、いい加減近づこうと思っていた矢先であった。 「それを……待ってたわ!!」 ルイズが喉を押さえてむせている。この好機を逃すまいとトリッシュはルイズに向かって走る。 距離が縮まり、そのまま殴りかかる寸前にルイズが顔を上げる。笑っていた。 「引っ掛かったわね!」 ルイズの叫びと同時に、トリッシュの左足が、爆発した。
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み「ほら!カナ!!私よ私!草苗みつよ!覚えてない?」 金「草苗みつ…草苗みつ……あっ、思い出したかしらー!専門学校で知り合った… みっちゃんかしらー!?」 み「そう!その通り!!ヴェリィークッド!!!Exactly!!!久しぶりねー!! 元気してたぁ?」 翠「…めぇら…」 金「みっちゃんこそどうかしr翠「てめぇぇぇら!!ちょっっと待ちやがれですぅぅぅぅ!!!」 そこで一喝したのは翠星石だった。場の空気は凍りついた 翠「揃いも揃って、感動の再会するのは一向に構わねーーーーんですがぁぁ!! 翠星石たちにも解るように木目細かに説明・紹介しやがれですぅぅぅ!!!!!!!」 … … … 真「ま、そうね、最初に誰も紹介すらしてなかったのは少々まずかったのだわ」 雛「じゃ、雛から紹介させてもらうのー♪この子はトゥモエー、『柏葉 巴』って言う名前なのよー 雛が高校の時のお友達の一人なのー♪」 巴は軽く会釈をする 巴「初めましてRozen Maidenの皆さん、柏葉 巴と言います。本日はお目に掛かれて光栄です!」 翠「ま、おめぇは超幸せ者ですぅ!翠星石たちにライブ以外で面拝めるんだから有り難く思いやがれですぅ!」 蒼「こちらこそ宜しく、ところで柏葉さんは雛苺と学生時代何かしてたのかい?」 銀「それは気になるところねぇ」 水銀燈はテキーラヤクルト割りを口にする。 巴「えーっと、そうですね、はい、私と雛苺は軽音楽部で知り合ったんです!」 雛「雛がボーカル担当してたのよー♪」 巴「雛苺とってもいい声してましたよ!とてもヴァリエーションが広くて…」 …なるほど…道理でデス声も出るはずだ…と薔薇乙女たちは確信した 巴「文化祭じゃ、お客さん沢山来てくれて、校内じゃ鋼鉄の乙女・歌姫とまで謳われたんです! 特にメタルとかハードロック系の時はもう大盛況でした!」 雛「やっぱ、歌って素晴しくて、とっても気持ちいいのよー♪」 それって重音楽部の間違いじゃね?2人以外はそう疑問に思った… 銀「ところでぇ…貴女は何担当してたのぉ?」 巴「えっ…私ですか、私はギター担当してましたよ」 銀「あらぁ…私もギターよぉ偶然ね、今度機会があれば見せてもらいたいわぁ貴女のギター」 巴「プロに通用する程の腕じゃないですよw」 銀「それでも構わないわぁ…大切なのはハートよぉ…♥」 雛「すいぎんとー、トゥモエのギターはとおっても上手なのよーー!学校で第2のマーティーって言われてたくらいなんだからー!!」 銀「それは期待だわぁ…」 水銀燈は軽く微笑んだ。 こんな感じで取り敢えず巴の紹介は無事済んだ。 翠「なるほど、よく解ったですぅ!じゃ次は真紅の隣にいるそこの眼鏡野郎ですぅ!」 J「(『桜田』って名札が目に見えないのかこのアマ…#)僕ですか?名前は『桜田 ジュン』。一応真紅の 真「下僕第1号よ」 J「誰 が 下 僕 だ !なった覚えもないぞ。幼馴染ってとこかな」 翠「真紅、この眼鏡野郎とは本当に主従関係ですかぁ?」 真「強ち、嘘でもないわね」 J「真紅!誤解招くような物言いするn」 翠「そういや、さっきおめー、端から見てれば真紅にボッコにされてた気がするですぅ! それに加えて下僕とくりゃあもしかしてMですかぁ?ww」 J「なっ、な訳ないだろ!!しかも下僕じゃないって!!(ハァァァァ…最悪だorzこんな誤解招くなんて)」 … … … … 真「自分から素直に白状出来ないなんてどうやらあの時の調教が足りなかったかしらw?」 J「う、うわああああああqwせdrftgyふじこlp;@: 巴「さ、桜田君落ち着いて!」 真「(ちょっと、からかいが過ぎたのだわ…w) この誤解については後にちゃんと解けたそうな…ww 金「じゃ次はみっちゃんを紹介するかしらー」 み「はい!どーーーもーー!カナの親友の『草苗 みつ』ことみっちゃんでーーーすっ!! 専門学校卒業した後はここの店長やってまーーすっ!」 真銀翠蒼雛薔「…( ゚д゚)」 あまりのハイテンションっぷりに薔薇乙女たちは少し引き気味である。 ジュンと巴に至っては普段、そんな彼女を見慣れすぎている所為か何ら平気である。 金「カナとみっちゃんは音楽系の専門学校で知り合ったかしらー♪」 み「まだ私が学校に入って間も無い頃ー、こう見えても私結構内気なほうだったのよーw! だから、あまり人とも話さないし、常に一人だったからちょっとネガ入ってたの… で、そこでっ!! たまたま偶然カナと同じクラスになってたの!もうその娘ったら可愛くて可愛くて…これはもうお近づきにならなくちゃ! 是非ともフィアンs…いやお友達にならなくちゃって思ったの!! そして声を掛けてみたら、カナったら潔くこちらこそ仲良くしてほしいかしらー♥って天使係った笑顔で言ってくれたから、私、嬉しくって嬉しくって…カナ思いっきり抱きしめちゃったの!!」 金「あの時は嬉しかったけどちょっとキツかったかしらー…意識飛び掛けてマサチューセッチュな状態になったかしらー…」 み「まあ、そんだけカナのこと愛してったってことなのよ」 金「手加減くらいはしてほしかったかしらー!!!」 み「ハァ━━━━(´Д`*)━━━━ン♥ちょっと怒り気味のカナも萌えーーーーーーーー!!!!♥♥♥ きゃーーーーーーーーッッッッッッ♥♥!!!!!!」 金「ギャアアアアアアアァァム、みっち゛ゃーーーん…ガナの意識ががまざち゛ゅーぜっち゛ゅ…」 2人の異常なまでの次元に誰も足を踏み入れることは出来なかった…南無三… To Be Continue おまけ 薔「今回…私…一言も喋ってない…(´;ω;`)」 銀「はいはい、ばらしー泣かないのぉ…カルアミルクでも飲んで、元気出しなさぁ~い♥」 薔「(コクン)…銀ちゃん…」 銀「今度はなによぉ…ばらしー」 薔「これ…とっても喉渇くよーー(´;ω;`)」 銀「まぁ、お酒なんだから当然でしょぉww」 (6)へ戻る/長編SS保管庫へ/(8)へ進む
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峡谷の山道に作られた小さな港町、ラ・ロシェール。その酒場は今、内戦状態のアルビオンから帰って来た傭兵達で溢れ返っていた。 「がっははははは!アルビオンの王さまももうおしまいだな!」 「いやはや・・・『共和制』ってヤツが始まる世界なのかも知れないな」 「そんじゃあ『共和制』に乾杯だ!」 そう言って野卑な声で笑う彼らが組していたのは、アルビオンの王党派だった。 雇い主の敗北が決定的になった瞬間、彼らは王党派に見切りをつけてあっさり逃げ帰ってきた。別段恥じる行為ではない。金の為に傭兵をやっているのだから、敗軍に付き合って全滅するほど馬鹿らしいことはないということである。 ひとしきり乾杯が終わった時、軋んだ音を立ててはね扉が開いた。フードを目深に被った女が車輪のついた椅子に座っており、白い仮面で顔を隠した貴族の男がそれを押しながら入ってくる。 真円に可能な限り近づけようと苦心した跡が見てとれるその車輪はしかし急ごしらえの為に満足な丸さを持てず、回転する度に耳障りな音を立てて車体を揺らした。女はローブに隠れる己の足を見下ろし、忌々しげに舌打ちする。 「不便ったらありゃしないね・・・この車椅子とやらは」 「そう言うな、お前の為に急いで作らせたものなのだからな」 仮面の男はそう言って車椅子を止めると、珍しいものを見て固まっている傭兵達に向き直った。 「貴様ら、傭兵だな」 その言葉と同時に、返事も確認せずに金貨の詰まった袋をドンとテーブルに置く。 「先ほどの会話からすると、貴様らは王党派に組していたようだが?」 あっけに取られていた傭兵達は、その一言で我に返った。 「・・・先月まではね」 「でも、負けるようなやつぁ主人じゃねえや」 そう言って傭兵達はげらげらと笑う。口を半月に歪めて、仮面の男も笑った。 「金は言い値を払う だが俺は甘っちょろい王さまじゃない・・・逃げたら、殺す」 「ワルド・・・ちょっとペースが速くない?」 抱かれるような格好でワルドの前に跨るルイズが言う。ワルドがそうしてくれと言ったせいもあって、雑談を交わすうちにルイズの口調は昔の丁寧な言い方から今の口調に変わっていた。 「ギアッチョは疲れてるわ 馬に乗り慣れていないの」 その言葉にワルドは後方を見遣る。血走った眼で馬を駆るギアッチョの身体からは漆黒の怒気が漂っていた。今にも馬を絞め殺さんばかりの勢いである。 「・・・何やら怒っているようにしか見えないが」 「疲れた結果よ!あいつは怒りやすいんだから」 ふむ、と言ってワルドはその立派な口髭を片手でいじる。 「ラ・ロシェールの港町まで止まらずに行くつもりだったんだが・・・」 「何言ってるの、普通は馬で二日はかかる距離なのよ」 「へばったら置いていけばいいさ」 当然のように言うワルドに、「ダメよ!」とルイズが反論する。 「どうして?」 「使い魔を置いていくなんてメイジのすることじゃないわ それにギアッチョは凄く強いんだから!」 ワルドはそれを聞いてふっと笑う。 「やけに彼の肩を持つね・・・ひょっとして君の恋人なのかい?」 「なっ・・・!」 その言葉にルイズの顔が真っ赤に染まり、 「そそ、そんなわけないじゃない!ああもう、姫さまもあなたもどうしてそんなことを言うのかしら」 なんだか顔を見られるのが恥ずかしくなって、ルイズは綺麗な髪を揺らして俯いた。 「そうか、ならよかった 婚約者に恋人がいるなんて聞いたらショックで死んでしまうからね」 そう言いながらも、ワルドの顔は笑っている。 「こ、婚約なんて親が決めたことじゃない」 「おや?ルイズ、僕の小さなルイズ!君は僕のことが嫌いになったのかい?」 昔と同じおどけた口調でそういうワルドに、「もう小さくないもの」とルイズは頬をふくらませた。 「・・・ところで、彼はそんなに強いのかな?」 「勿論よ 私の自慢の使い魔なんだから! 詳しくは話せないけど・・・」 ワルドの質問に自慢げにそう答えるルイズを見て、ワルドは何かを考える顔をした。 疲労と怒りをこらえながら、ギアッチョは馬を駆る。朝からもう二回も馬を交換していた。 さっきからルイズが何回か心配そうにこちらを見ていたが、ギアッチョは休憩させてくれなどと言うつもりは微塵もない。 そんな情けないことはギアッチョのプライドが受け入れなかった。十四歳――とギアッチョは思っている――の子供にこんなことで心配されたという事実がその意地を更に強固にしている。 ――ナメんじゃねーぞヒゲ野郎・・・ついて行ってやろうじゃあねーか ええ?オイ 口から呼気と共に殺気を吐き出しながら、ギアッチョはそう呟いた。 このまま放っておけば自分に累が及びそうだったので、デルフリンガーは彼の怒りを逸らすべく口を開く。 「あ、あのですねーダンナ・・・」 「ああ!?」 「ヒィィすいません!」 熊も射殺さんばかりのギアッチョの眼光にデルフリンガーは一瞬で押し黙ったが、気持ち悪いから途中で止めるなというギアッチョのもっともな発言を受けて恐る恐る話題を再開した。 「い、いやー・・・ルイズの婚約者らしいッスねぇあのヒゲ男」 「そうだな」 「そ、そうだなって・・・なんかないんスか?結婚ですよ結婚」 ギアッチョの意識をなんとか婚姻の話題に持って行こうとしたデルフだったが、彼の「ああ?」という一言で全てを諦めた。 何度も馬を変えて昼夜を問わず飛ばし、ギアッチョ達はその日のうちに――といっても夜中だが――なんとかラ・ロシェールの入り口まで辿り着いた。 「・・・なんだァァ?ここのどこが港町なんだオイ?」 ギアッチョは周りを見渡して言う。四方八方を岩に囲まれた、まごうこと無き山道であった。 月明かりに照らされて、先のほうに岩を穿って作られた建物が立ち並んでいるのが見える。まだ走らせる気かと、いい加減ギアッチョの怒りが限界に達しつつあった。 「ああ、ダンナはしらねーのか アルビオンってのは」 と喋る魔剣が口を開いた瞬間、崖の上から彼ら目掛けて燃え盛る松明が次々と投げ込まれ、 「うおおッ!」 戦闘の訓練をされていないギアッチョの馬は、驚きの余り暴れ狂ってギアッチョを振り落とした。 よく耐えたと言うべきか。一昼夜を休み無く走らされた挙句に馬上から振り落とされて、ギアッチョの怒りは頂点に達した。 デルフリンガーを引っつかんで鞘から乱暴に抜き出し、崖上に姿を現した男達を猛禽のような眼で睨んで怒鳴る。 「一人残らず凍結して左から順にブチ割ってやるッ!!!ホワイト・アルバ――」 しかし彼の咆哮は予想だにしない咆哮からの攻撃で中断され、彼の口からは代わりにもがッ!!というくぐもった声が響いた。 「どういうつもりだクソガキッ!!」 己の口に押し当てられた手を引き剥がしてギアッチョが怒鳴る。ギアッチョに飛びついて彼の攻撃を中断させたのは、他でもない彼のご主人様であった。 「それはこっちのセリフよ!」 ギアッチョに負けじとルイズが怒鳴る。 「見たとこ夜盗か山賊の類じゃない!こんなところで堂々とスタンドをお披露目してどうするのよッ!」 「ンなこたぁもうどうでもいいんだよッ!!離れてろチビ!!一人残らずブッ殺してやらねーと気が済まねぇッ!!」 ブッ殺したなら使ってもいいッ!とペッシに説教しているプロシュートの姿が浮かんだが、ギアッチョはいっそ爽やかなほど自然にそれをスルーした。 「だっ、誰がチビよこのバカ眼鏡!あと1年もしたらもっともっと大きくなるんだから!」 どこが?と言いたかったデルフリンガーだったが、二人の剣幕に巻き込まれると五体満足では済みそうになかったので黙っておくことにする。 「とにかく!」とルイズは小声になって怒鳴る。 「ワルドはわたしの婚約者だけど、同時に王宮に仕えてるってことを忘れないでよ! そんなことしないとは思うけど・・・万が一王宮にあんたのスタンドのことがバレたらどうなるか分かったもんじゃないんだから!」 「そうなってもよォォォ~~~~ 全員凍らせて逃げりゃあいいだろうが!!キュルケだのタバサの国によォォォォ!とにかく邪魔するんじゃあねえ!!そこをどけッ!!」 「何無茶苦茶言ってるのよ!あんたの責任は私にも及んでくるんだからね!! 勝手な行動は許さないんだから!!」 再び大音量で怒鳴る二人を不思議そうな眼で眺めながら、ワルドは小型の竜巻で飛んでくる矢を弾き逸らす。そうしておいて、ワルドは攻撃の為の詠唱を始めた。 このままではワルドに全部持っていかれてしまうと気付き、ギアッチョはちょっとルイズを眠らせてしまおうかと考えたが―― ばさりというどこか覚えのある羽音が聞こえ、ギアッチョ達は上を見上げた。 直後男達の悲鳴が聞こえ、それと同時に彼らは次々に崖下に転落する。 「あれ・・・シルフィード!?」 ルイズ達の驚きにきゅいきゅいという声で答え、シルフィードとその上に乗った三人――キュルケとタバサ、それにギーシュが降りてきた。
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「桟橋」の階段の先は、一本の巨大な枝に続いている。そこに吊り下げ られている船の甲板にワルドとルイズはいた。ギアッチョは左手に デルフリンガーを握ると、昇降の為に備えられているタラップに眼も くれずそのまま甲板に飛び降りる。着地の衝撃が身体を揺らすが、 「ガンダールヴ」の力はギアッチョにまるで痛みを感じさせなかった。 「便利なもんだな」と呟きながら剣を仕舞う。ワルドに視線を遣ると、 彼は遅いぞと言わんばかりの眼をこちらに向けていた。 「交渉は成功してるんだろーな」 「勿論」 ワルドは杖の先で羽根帽子のつばをついと押し上げ、舳先の方で 船員達に指示を出していた船長に声をかけた。 「船長、もう結構だ 出してくれたまえ」 船長は小ずるい笑みでワルドに一礼すると、船員達に向き直って怒鳴る。 「出港だ!もやいを放て!帆を打て!」 がくんという衝撃と共に船が浮き上がる。ギアッチョは舷側に乗り出して、 興味深そうに地上を見下ろした。ルイズの話では、船体に内臓された 「風石」とやらの力で宙に浮かんでいるのだという。徐々に速度を増して 遠ざかってゆくラ・ロシェールの明かりを眺めて、ギアッチョはキュルケ達の ことを考えた。あの三人とシルフィードなら、引き際を誤らなければ死ぬ ことはないだろう。しかしそう思いつつも、意思に反して彼の心はどこか ざわついている。今日何度目かの舌打ちをして、ギアッチョは去り行く港の 灯りから眼を離した。ボスを裏切って7人散り散りに別れたあの日以来、 こんな気分になることはもうないと思っていた。 どうしてこんな気持ちになる?彼女達が死んだところで自分にどんな不都合が あるというのだろう。暗殺者という軛を外れた彼が否応なく人としての心を 取り戻しつつあることに、ギアッチョは気付けない。 「クソ・・・気分が悪ィ・・・」 自由な片腕で欄干にもたれたまま、ギアッチョは不機嫌な顔で眼を閉じた。 包帯と軟膏を持って、ルイズは少し釈然としない顔で船室から甲板へ戻って きた。怪我人がいるから譲って欲しいと船長に頼んだのだが、薬は高いし 船の上では補充も効かないと言われて二倍以上の金額で買わされたのだった。 しかしまぁそれも仕方ないかなとルイズは思う。身近な国で戦争が起こっている このご時世、平民からすれば少しでも金は欲しいのだろうし、包帯や薬は アルビオンに輸出されて品薄になっているのかも知れない。船長ならちゃんと 船員に金を分け与えるだろうし、貴族としてこのくらいの支出はしなければ。 等と素直に考えている辺り、ルイズはまだまだ純粋な少女であった。 欄干にもたれているギアッチョの元へ、ルイズは足早に歩いて行く。 マストの下で、ワルドと船長が何事か話していた。「攻囲されて・・・」だの 「苦戦中・・・」だのという言葉が聞こえてくる。やはり戦況は芳しくないようだ。 どうやら手紙の所持者、ウェールズ皇太子はまだ生きて戦い続けてはいる らしい。しかしアルビオンの王党派は、もはやいつ全滅してもおかしくない 瀬戸際にいるという。脳裏をよぎった最悪の可能性に首を振って、ルイズは ギアッチョの元へ逃げるように駆け出した。 「左手、出して」 「ああ?」 後ろからかけられた言葉に、ギアッチョは気だるげに振り向く。両手に 包帯と軟膏を抱えてルイズが立っていた。 「包帯巻くのよ」 「・・・オレをミイラ男にでもする気かてめーは」 ギアッチョはじろりと包帯を見る。どっさりと抱えられたそれは、彼女のか細い 両腕から今にも転がり落ちそうだ。 「う・・・あ、明日の分もいるでしょ!そ、それに交換もしなきゃいけないし・・・ あと、えーと・・・・・・ああもう!とにかく左手出しなさいよ!」 「そこに置いとけ 包帯ぐらいてめーで巻ける」 どうでもいいようにそう言って、ギアッチョは再び空に顔を戻した。 ルイズは少しムッとする。わざわざそんな言い方をしなくてもいいではないか。 「左手出しなさいってば!」 ルイズは意固地になって繰り返す。 「てめーで巻けるって言ってるだろーが」 「自分じゃ巻きにくいじゃない!巻いてあげるって言ってるんだから大人しく 聞きなさいよ!」 「いらねーってのが分からねーのかてめーは いいからそこに置け」 「あんたこそ出せって言うのが分からないの!?いいから出しなさい!」 絶対巻いてやるんだから!と躍起になるルイズと全く巻かせる気のない ギアッチョは、一進も一退もしない攻防を続ける。無表情で拒否を繰り返す ギアッチョにいい加減疲れてきたルイズは、はぁと溜息をついて尋ねた。 「もう・・・どうしてそんな意地になるのよ」 借りを作るのは面倒の元だ、と言おうとしてギアッチョはハッとする。 ここはそういう世界ではないのだ。そしてルイズはそんな人間ではない。 進んで手当てをしておいて貸しを作ったなどと、考えすらしないだろう。しかし。 「・・・な、何よ」 ギアッチョはじろりとルイズを見る。 彼にも矜持というものがある。大の男が年端もゆかぬ――しつこいようだが ギアッチョはそう思い込んでいる――少女に包帯を巻かれる等という状況は とても容認出来るものではなかった。そんなギアッチョの心境を感じ取ったのか どうなのか、 「分かったわ・・・じゃあこうしましょう あんたが包帯巻くのをわたしが手伝うわ」 ルイズはそう言って、まるで名案でも思いついたかのようにえっへんと残念な 胸を張った。その拍子に次々と包帯が甲板に落ちて、ルイズは慌ててそれを 拾い集める。そんなルイズを見下ろして、ギアッチョはしょーがねーなと考えた。 借りがどうだと言うのなら、そもそも命を助けられた時点でこれ以上ない借りを 作っているのだ。借りを返すということで我慢してやることにして、ギアッチョは あくまで投げやりに口を開いた。 「・・・勝手にしろ」 「――ッ!」 ギアッチョの左腕を捲り上げて、ルイズは息を呑んだ。仮面の男の雷撃に よって、ギアッチョの左腕は見るも無残に焼け爛れていた。 「ひどい・・・」 ルイズは思わず声を上げるが、 「この程度で騒ぐんじゃあねー」 ギアッチョはことも無げにそう言って、ルイズの腕の中の包帯と軟膏を一つ 無造作に掴み取った。それらをポケットに突っ込むと、ショックを受けている ルイズを放置して船室へと入って行く。船員に言って水を貰い、痛みをこらえて 傷口を洗い流し軟膏を塗りつける。それから包帯を取り上げると、右手と口で 器用にそれを巻いていく。半分ほど巻き終わったところで、 「ひ、一人で何やってんのよあんたはーーーっ!」 ようやく正気を取り戻したルイズが飛び込んで来た。 「も、もうこんなに巻いてるじゃない!わたしも手伝うって言ったでしょ!?」 「だから勝手にしろって言っただろーが 来なかったのはおめーの勝手だ」 しれっと言ってのけるギアッチョに、ルイズの肩がふるふると震える。これは キレたか?と思ったギアッチョだったが、 「・・・何よ 手当てぐらいさせなさいよ・・・」 ルイズの口から出てきたのは、実に弱弱しい言葉だった。少し眼を伏せた 格好で、ルイズは殆ど呟くような声で言う。 「・・・姫様に頼まれたのはわたしなのに、わたしだけが何も出来ないなんて 最低よ・・・ あんたもワルドも、キュルケ達まで戦ってるのにわたしは何も 出来ずに見てるだけなんて、こんなのメイジのやることじゃないわ・・・ 挙句にわたしを庇ってこんな大怪我までされて・・・せめて手当てぐらい しなきゃ、わたし・・・!」 ルイズの言葉は、彼女の悔しさと申し訳なさを如実に物語っていた。 ギアッチョは改めてルイズを見る。俯いて立ち尽くすルイズの拳は、痛い ほどに握り締められていた。 「主人を庇うのが使い魔の仕事なんだろーが」 包帯を巻く手を休めてギアッチョは言うが、その言葉はルイズの傷をえぐる だけだった。 「そうだけど・・・そうだけど違うもん 使い魔だけど、あんたは人間だもん ・・・何よ 何でも出来るからって、どれもこれも一人でやらないでよ・・・ 一つくらい、主人らしいことさせてよ・・・」 ここまで深刻に悩んでいるとは思わなかった。ギアッチョはがしがしと頭を掻く。 ルイズはこう見えて責任感が強い。何も出来ずただ守られているだけの自分を、 彼女は許せないのだろう。 「・・・てめーでやれることをすりゃあいいんだ 拗ねることじゃあねーだろ」 「・・・拗ねてなんかないもん 使い魔の前で拗ねる主人なんていないもん」 拗ねながら落ち込むという若干高度なテクニックを披露するルイズに軽い 頭痛を感じたが、しかし一方でギアッチョにはルイズの無力感が痛いほどよく 分かる。フーケ戦で己の無力を痛感したギアッチョに、今のルイズはどうしても 捨て置けなかった。 自分を誤魔化すようにはぁと溜息をつくと、彼は左手をルイズに突き出した。 「・・・片手でやるのはもう疲れた 後はおめーがやれ 一度やると言ったんだからな、嫌だと言っても巻いてもらうぜ」 その言葉に、ルイズの顔が一瞬ぱぁっと明るくなる。それに気付いてルイズは ぷいっと怒ったように顔を背けて答えた。 「い、言われなくたってやってあげるわよ!しょうがないけど、言ったことは やらなきゃダメだもの ご主人様が直々に手当てしてあげるんだから、 かか、感謝しなさいよね!」 誰が見ても照れ隠しと分かる顔で早口にそう言って、ルイズはギアッチョの 右手から包帯の端をひったくった。手持ち無沙汰になったギアッチョはフンと 鼻を鳴らして眼鏡を押し上げると、何をするでもなく黙り込んだ。 まるで白磁のような手で、ルイズは包帯を巻いてゆく。未だに燃えているかと 錯覚するほどに熱い腕を、その冷たい指で冷ましながら。 たどたどしい手つきではあるが、出来うる限り優しく丁寧に巻こうと苦心している ことが十二分に伝わってくる。良くも悪くも、真っ直ぐな少女だった。 一心不乱に包帯と戦っているルイズを見下ろして、ギアッチョはふと思う。 ペッシを見守るプロシュートは、こんな感じだったのだろうかと。もっとも、 ペッシとルイズの容姿には本当に同じ人間同士かというほどの差はあるのだが。 「おめーも物好きな野郎だな」などと冗談交じりに話していたことを思い出す。 しかしあいつの気持ちが、今なら少し――本当にほんの少しだが、分かるかも 知れない。そのうち地獄でプロシュートに会ったら、「オレもヤキが回ったもんだ」 と言ってやろうかとギアッチョは思う。しかし少なくとも、手紙を回収するまでは そっちには行けそうにない。ならば当面はプロシュートに学ぼうかと彼は考えて みた。あんな時こんな時、あいつはどう説教していただろうか、どうフォローして いただろうか。「何でオレはこんなことをバカみてーに考えてんだ」と心中毒づき ながらも、ギアッチョはプロシュートの偉大さを痛感した。ギアッチョが覚えている だけでも、プロシュートは結構な回数ペッシをブン殴っていた。にも関わらず、 ペッシはプロシュートを変わらず「兄貴」と慕っていたのである。 ――カリスマってヤツか? いや、それはリゾットだろうか。まあどの道、とギアッチョは結考える。どの道 自分にプロシュートのような真似は出来ない。特に額に額を当てる彼の得意技 など、ギアッチョがやれば恫喝にしか見えないだろう。 オレはオレで適当にやらせてもらうとしようと結論づけて、ギアッチョは己の 左腕に眼を落とす。包帯は既にその大部分を包んでいた。 ついでにプロシュートはこの状況ならどうするだろうかと考えてみる。 「『手当てした』なら使ってもいいッ!」と真顔で言うプロシュートが何故か思い 浮かんで、ギアッチョは思わず口の端がつり上がった。そんなギアッチョと偶然 眼が合って、彼の笑みをどう解釈したものか、ルイズは少し顔を赤らめて眼を 逸らした。
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人間がこの世に存在するのは金持ちになるためではなく、幸福になるためである byスタンダール ドアを開けるとそこにいたのはワルドだった。 「おはよう。使い魔くん」 「おはようございます」 「おはようございます」 五月蠅いぞギーシュ。会話に入ってくるな。 しかし朝からどうしたというんだ?朝食にはまだ早いだろう? 「ええと、ギーシュくん。少しの間ご退出願えるかな」 「は、はい」 ギーシュは戸惑いながらも出て行く。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのだろう?」 そしてギーシュが完全にいなくなったことを確認すると、ワルドは突然そう切り出した。 「は?」 心臓がバクバクする。誤魔化せれた、誤魔化せれたよな!?なにも顔には出してないよな!? うまく惚けた振りできたよな!? なんで知ってんだよ!?ありえねー!ふざけんなよ!? 「……その、あれだ。フーケの一件で、僕はきみに興味を抱いたのだ。そしたら伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうじゃないか」 ワルドは何か誤魔化す様な感じで首を傾げながら言う。反応からしてどうやらこちらの変化には気づいてないようだ。 よかった、いつも無表情でいて。……よし、落ち着いた。もう大丈夫。 私が『ガンダールヴ』だということを知っているのはオスマン、ならびにオスマンと一緒に調べた(らしい)コルベールだけだのはずだ。 知っているはずがない。それに『ガンダールヴ』は伝説なのだ。オスマンはそれを勿論知っている。コルベールもだ。 伝説が復活したとなれば色々騒ぎになるはずだ。その騒ぎを恐れてオスマンとコルベールは秘匿しているはずなのだから喋るわけがない。 さすがに色仕掛けだとかそんなもんで喋るものでもないだろう。 ルーンを見られたという可能性もあるがいつも手袋をしてるし、洗濯等の水周りぐらいでしか外さない。 それにルイズにすらルーンを見せてないしな。 おかしい、そして怪しい。 「『ガンダールヴ』ですか?それは一体?」 誤魔化すことにしよう。そしてワルドの様子をさぐる。 「いや『ガンダールヴ』だよ。まあいい。僕は歴史と、兵(つわもの)に興味があってね。フーケを尋問したときに、きみに興味を抱き、王立図書館できみのことを 調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』にたどり着いた」 確定だ。こいつは怪しいんじゃない、怪しすぎる。敵である可能性もでかい。 何でその王立図書館で俺のことが調べられるんだ?どうしてそこで『ガンダールヴ』が出てくる?敵かもしれないという可能性は暴論じゃないはずだ。 敵じゃなくても何か隠してるのは間違いない。 「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 おいまさか…… 「……それのことですか」 そう言ってワルドの腰に刺さっている杖を指し示す。 「これのことさ」 ワルドは薄く笑いながら杖を引き抜く。もしかしたら試合中の事故とか言って私のことを殺すつもりなのかもしれない。 「断ります」 「へ?」 ワルドは目を丸く見開き呆けた表情をする。断れるとは思って無かったのだろう。滑稽だな。 しかしすぐに正気に戻る。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。お互いの力量が測れるいい機会だと思わないかい?お互いの実力がわかれば戦闘においても作戦が立てやすくなる」 しつこいな。そんなにしてまで私を殺したいのか? 「心配しなくてもあなたの実力は大体予測がついてます」 「へ?」 「おそらく『風』のスクウェアメイジで接近戦でも強いであろうということ。それと戦いなれしているであろうということ。それだけわかれば十分です」 体つきがいいからな、鍛えているのだろう。だから接近戦も出来るはずだ。もしかしたらそこに魔法を織り交ぜてくるのかもしれない。 『風』だと判断したのはギーシュの使い魔への攻撃とギーシュに迫る矢を防いだ時に『風』属性の魔法を使っていたからだ。 とっさに何かする場合、自分が得意とする属性が出るものだと思っている。それに魔法が使える奴は自分の得意な属性を贔屓したがるようだしな。 なんにせよ、ワルドの呆けた顔は滑稽だった。
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モット伯の屋敷が焼け落ちてから数週間が経過したが、大きな動きはなかった。 王宮としても現在はアルビオンへの対処に頭を悩ませなければならないのでそんな一メイジ、それも悪評が立ちまくりなやつなどどうでもよかったのだ。 領地で働いている平民には事故だと知らされ、もうしばらくすれば複数の領主がその土地を分割する手はずになっていた。 「運がよかったわね」 「そうですね。お尋ね者になってしまえば僕も困ってました」 マチルダと花京院はトリステインとゲルマニアの国境付近にある街の酒場で食事をしていた。二人が顔を合わせるのは久しぶりのこと。 マチルダが屋敷から盗み出した宝石などの貴重品を闇市場で金に替えて分配すると、二人組がどうたらこうたらと手配をされた場合に備えて別々に行動していたのだ。 それも杞憂だった、ということだが。 「さて、無事に再会したのを祝したところで、これからどうする?」 「個人的に、行きたいところがあるんですが」 「どこだい?」 「魔法学院、というところです」 マチルダはあからさまに嫌そうな顔をした。そんなところに行けば水が襲ってくるからである。仮にンドゥールが興味なかったとしてもオスマン当たりなどの実力者に発見されれば手痛い目にあうかもしれないのだ。 勘弁願いたいところである。いくら運命に身を任せたといっても急すぎる。 「とりあえず、理由を聞いてくれませんか?」 「ああ。言ってみな」 「この数週間、そこらの書店を見て周り、この世界にやってきた原因を僕なりに調べていました。それで有力なものが見つかりました」 「なんだい?」 「サモン・サーヴァント、というものです」 マチルダは、そういえばンドゥールもルイズの使い魔であったなと思った。 目の前の男もどこぞのメイジがやったそれの失敗で召喚された可能性は大いにある。 「僕の考えはどうですか?」 「……ああ。正しいと思うよ。ま、どこの阿呆がやってくれたのかは知らないけどね」 「いえ、あのまま死んでいた僕を助けてくれたのだから感謝してますよ」 笑っていた。 マチルダは自分も昔、使い魔召喚の儀式を一人で行ったことを思い出した。失敗したが。 「でもねえ、あんた、学院に行ってどうするの? まさか図書館に入らせてくださいって頼んで、やすやすと入らせてもらえると思ってる?」 「駄目でしょうかね」 「そりゃもちろん。だってこの前、盗みが入ったんだもの。注意深くなるに決まってるじゃないか」 「本人が言いますか」 マチルダがかっかと笑った。彼女はすでに花京院に自分の素性を話している。というよりも『土くれ』のフーケなんですか、と、尋ねられたので肯定しただけだが。手配書のまんまであるため気づいて当たり前だった。 「ですが、それでも駄目もとで尋ねてみます」 「仕方ないねえ……」 花京院は放っておいたとしても一人でいくだろう。マチルダとしてもンドゥールにもう一度顔を合わせて自分の感情を整理させておきたい。そこまで考え、マチルダは最初から決まってるじゃないと心の中で笑った。 「いいわ。明日にでも行きましょう」 「ありがとうございます」 二人は馬を駆り、整備されている街道を走っていった。急ぐ旅でもないため村や街に立ち寄り、時には亜人を退治して金を稼いでもいた。 そして出発してから数日後の夕暮れ、タルブという村に二人は着いた。亜人退治のために訪れたわけではない。単に休息のために立ち寄っただけである。 なんでも、変わった料理があるらしいので、ものはついでと食いたくなったのだ。 マチルダが。 「いやしんぼッ! このいやしんぼめッ!」 「お黙り! 別にいいじゃないのさ。そう急ぐもんじゃないだろ」 「まあそうですけどね。それに、景色もいいですし」 二人の視線の先には草原が広がっている。ところどころ朱に染まった花が咲き乱れ、風が吹くと草が波打っていた。 花京院がその光景を眺めながら笑みを浮かべ、語りはじめる。 「この世界に来る直前も旅をしていたんですが、過酷なところばかりでした。海中、砂漠、飛行機は落ちるし……」 「ひこうき?」 「空を飛ぶもんです。ここにはありません」 竜かなにかかしら、と、マチルダは思った。 花京院はかすかな笑みを浮かべてこう付け加える。 「それでも楽しかったものです」 「なんだか羨ましいね。ほら、さっさと宿を探すよ」 マチルダは草原から離れ、村に入っていった。花京院もあとに続く。 タルブの村はこれまで何度も訪れた農村と同じものだった。果樹園があり、畑があった。 手入れを欠かしたことがないのだろう。いまにも収穫できそうに膨らんだ果実があった。 小さな喜びを積み重ねている村の歴史が想起できた。花京院が仕事帰りの人間に声をかける。 「すいません。どこか泊まれるようなとこはないですか?」 「ん、なんだ、あんたら旅人か? それなら村長のところにいけばいいぜ」 「ありがとうございます」 二人は礼をした。 村長に話をすると、快く招いてくれた。商人をいつも泊めているらしく、離れの客室は立派なものだった。しかし、マチルダは一つだけ不満があった。 「なんで布団が一つなんだい」 「まあ男と女の二人旅ですからね。そう勘違いされるのも仕方ないでしょう」 「あんたと恋仲になったつもりはないんだけどね。飯時にでも言うか。で、これからどうする? 寺院でも見に行くかい?」 寺院というのは本来、始祖ブリミルを祭るものであるがこの村ではちっと違うとのことだ。 いや、ブリミルを崇めることには変わりないが、大昔にふらっとやってきてそのまま 居ついた人物が妙な寺院を建て、『竜の羽衣』と呼ばれる御神体を飾っているとのことだ。 興味は引かれる。 花京院は外を見た。夕日がまた落ちていない。 「そうですね。行ってみます。マチルダさんはどうします?」 「あたしも行くさ。ノリアキ」 村長にすぐ戻ると言いつけ、外れの寺院に向かった。 その寺院は村長の言葉通り、妙な形をしていた。丸木で組み立てられた門に石ではなく板と漆喰で作られた壁、木の柱、白い紙と綱で作られた紐飾り。 一般的なものとは大きく変わっている。 「確かに珍しいねえ。どういう流れでこんな形を取ってるんだろうね」 ブリミルを祭るとはいえ、始祖が降り立ってから数千年が経過しているため地方や国ごとに形は変わっている。 とりわけここ最近のものは新教徒などというものが出てきたため古い寺院と形が大きく変わっているところがあった。 しかし、この目の前のものをマチルダは見たことがない。可能性があるとしたら東方かと、彼女が頭を悩ませていると隣の花京院が地面に崩れ落ちた。 「急にどうしたんだい」 「……あまりに驚いて、その、腰が抜けました。すいません」 マチルダの手を借り、花京院が立ち上がる。彼は額に大粒の汗をかいていた。 「戻って休むかい?」 「いや、それには及びません。中の御神体を見てみましょう」 「わかったよ」 花京院は別に体調が悪くなったようではなかった。マチルダは気に掛けながらも寺院に近づいていった。 ところが、彼女はある奇妙なことに気づく。門がゆれているのだ。それも風に。 脳裏にある男の影が過ぎった。 すぐさま杖を引き抜く。精神を戦闘のできる状態にまで引き上げる。 「ノリアキ、スタンドで中を探って」 マチルダの強い声に、花京院はすぐさま『法王の緑』を出現させる。 しゅるしゅると身体をひも状にして中へ伸ばしていく。 「誰かいる?」 「いえ。ですが痕跡があります。ついさっきまで誰かがここにいました」 「そう。ノリアキ、スタンドを戻して」 マチルダは周囲を見やる。誰もいない。気のせいだったかと思いかけたとき、視界の隅に見覚えのある帽子を被った男がいた。そいつは草原の近くにある森の中に隠れるように走っていった。 なぜあいつがここにいる。マチルダは、背筋に冷たいものを感じ、即座に走り出していた。 「ついてくるんじゃないよ!」 マチルダが森の中に入り、歩き回るうちに日は完全に落ちてしまっていた。それでも彼女が見た人影は見つかっていない。見間違い、だったとは思えない。 寺院の中から吹いた風、あれは間違いなくあの男のものだったのだ。 しかし、どうやら完全に見失ってしまったようであった。彼女はひとまずタルブに戻るべきかと踵を返した。その目前に、男はいた。 「久しぶりだな。マチルダ」 「やっぱりあんただったんだね。ワルド」 男、ワルドは木の幹に背を預けている。右手に影に溶け込む黒の手袋をしていた。 あれはおそらく義手だ、と、マチルダは当たりをつけた。 彼女は杖先を向け、全身にじわりと殺意の熱を伝導させる。 体と心を構えた。 「いまさらこの国に何の用だい」 「下見だ。近々侵攻作戦が行われるのでな」 「へえ。ま、あたしは全然興味ないけどね。勝手にやってたらいいさ。でも、わざわざ顔を出したってことはそれだけじゃないんだろ?」 「話が早くて助かる」 ワルドは杖を抜いた。 「マチルダ。レコン・キスタに来い。我らには優秀なメイジが必要だ」 「いやだね。貴族やらなんやらは懲り懲りだよ」 「そうか」 風が襲い来る。強風ではなく暴風、木をへし折りマチルダを軽々空に舞わした。彼女はそれでも慌てない。宙を舞いながらしっかりとワルドを見つめ、魔法を唱えた。 ワルドのそばにゴーレムが生まれ、土の拳で殴りかかった。それは顔面に命中、したが、彼は霞になった。風の遍在。 マチルダは地面に着地し、身体を思い切り捻った。 肩に痛みが走る。血が飛ぶ。歯を食いしばり蹴りを見舞う。 「――さすがだなマチルダ」 「それはどーも。あんたのせこさに敵いはしないけどね」 マチルダは肩を押さえる。即座に反転したおかげで傷は浅い。 彼女の目の前には脇腹を押さえているワルドがいる。最初から背後に隠れ、遍在で攻撃させたのだ。だがマチルダも経験は豊富。相手の能力がわかっていればどういう作戦を立ててくるかも想像がつくもの。本物が顔を見せるとは砂粒ほども思っていなかった。 「やはりお前の力は欲しい。魔力だけではなくその判断力。レコン・キスタに入れ。 お前ほどのものであればそれなりの地位に着ける」 「いやだっつってんでしょ」 「お前の意見は聞いていない」 杖が唸りを上げて迫った。マチルダはそれを避けながら詠唱を始める。 だが、ワルドもそれは同じ。 『エア・カッター』 『ゴーレム』 ワルドの魔法をゴーレムで防ぐ。錬金が甘かったため簡単に真っ二つになったがその隙にマチルダはナイフを投げた。 「ちい!」 外したマチルダ、かろうじて避けたワルドが発する。 「姑息だな」 「そうさ。あんたみたいにね」 「そう言われれば、もっと卑怯な手を使うことにしよう」 マチルダを暴風が襲う。砂が巻き上げられ、地に踏ん張ることもできなくなり空を飛ぶ。 フライで体勢を変え地上に降り立とうとするが、彼女の視界に杖を差し向ける四人のワルドが見えた。 「マッズイわね、こりゃ」 風が幾重にも重なりマチルダに襲い掛かる。無数の刃に切り裂かれ、細かい傷がつけられる。愛用のコートもずたボロだ。どうにかレビテーションで着地をするも、畳み込むように魔法が向かってきた。殴られ切られ、弱い電撃を浴びせられる。杖は離していないが詠唱する暇がない。このままでは、なぶり殺しにされてしまう。 ちくしょう―― 「ぬおあ!」 急にワルドの悲鳴がした。魔法も止む。 マチルダは痛む身体を起こした。見ると、ワルドの遍在が一体消し飛んでいた。そして彼らが睨むその方向には、深緑の男が立っていた。この短い旅で親交を深めた、花京院。 「やはり、きたか」 ワルドが呟く。 花京院は黒眼鏡を外し、懐に収める。 「まるで予測がついてたようですね」 「そうさ。だから、お前の相手も用意している」 地より水が突き上げた。 「これは……」 それは花京院へ向かう。蛇のような不規則な動きで襲い掛かる。しかし、マチルダの知るものよりはるかに速度が遅い。花京院も『法皇の緑』で宝石を打ち出し水を散らした。 「遅いぞ」 「すいませんね。いや、ちょっと準備に手間取りまして」 そう言って、もう一人姿を現した。顔の半分が火傷に覆われている。マチルダと花京院にも見覚えがあった。先日仕置きをしてやった水のメイジである。 名前は、モット。 「なんであいつが生きているんだい」 「ああ、彼は予備の杖を地下に隠しておいたのだよ。それでも、あの火災で気を失っていたようだがね」 詰めが甘かった。マチルダは悔いるが、遅い。 「よくもまあ、あっさり仲間になったもんだね。女を渡してやるとかいったのかい?」 「ああ。性格は誰よりも醜いが、力だけはある。モット殿、そっちの男は任せましたぞ」 「おお!」 モット、すでにレコン・キスタに魂を売った男は花京院を森の奥に引き寄せた。彼にとって予想外だったのは水を使った攻撃をいとも簡単に打ち払われること、それだけだ。 作戦はすでに進行している。 人がいい、その弱点を突く。 「エメラルド・スプラッシュ!」 緑の像から宝石が打ち出される。モットは俊敏さが皆無のため氷を盾にしてそれを防ごうとする。しかし、なにぶん数が多いため二つほど身体に当たってしまった。 しかし彼も水のトライアングル、すぐさま治癒は完了する。 と、続けざまに宝石が飛んできた。魔法使いではない。詠唱を必要としないのだから厄介な相手である。まともにやりあえば力押しされて今度こそ殺されるか再起不能にされてしまう。だが、モットはただの悪党ではない。腐った悪党であった。モットは物陰に隠していたものを引っ張り出した。 「貴様……」 花京院が攻撃を止めて怒りをもらす。モットの腕の中に、裸の女がいた。 その人物はモットの毒牙にかからずにすんだものだった。 「わかってるだろうなあ。お前が動いたら、この女を見るも無残な姿に変えてやる」 「人質とは、随分汚い手を使う」 「なんとでもいえ。俺を舐めてくれた代償だ。お前たちはぜっっったいに、許さん! 出て来い!」 モットの声に応じ、木の陰から武器を持ったものが何人も出てきた。着ている服から傭兵などではなく農民だというのがわかる。しかし、タルブの村のものではなかった。 彼らの中に、姉を救ってくれと懇願してきた少年がいた。彼は顔面に大きな痣がついている。 「……ごめん、にいちゃん。俺は、」 少年の瞳には涙が溜まっていた。恩人に刃を向ける、そのことがどれほど辛いことか。 そして、己に逆らってきたものたちが苦しむさま、それらがどれほどモットに心地よいものか。 「いいか! さっきの使い魔を出すんじゃないぞ! 出したら即刻この女を殺してやるからな!」 花京院はおとなしくスタンドを消した。 「やれ!」 少年とその親であろう者たちは襲い掛かった。慣れていない武器をふるって花京院を殺そうとした。しかし鍬やカマとは使い勝手が全然違ううえ心が拒否をしている。この男を、恩人を殺したくないと。 標的の身のこなしもあって、いつまでたってもこの戦いは終わりそうになかった。だが、モットはここで一つのゲームを提案する。 懐から短い蝋燭を取り出した。 「いいか。これにいま火を点ける。この蝋燭が溶けきって、それでもまだ毛ほどの傷も男になかったら、この女の胸をえぐる」 「人間、ではないな。罪悪感はないのか」 「ざいあくかんんん~? 虫けらどもにそんなものが湧くか! お前たちはただ俺を楽しませればいいのだ!」 甲高い、醜い笑いがこだまする。 「さあ、スタートだ!」 火をつけられて女の家族はもう心の枷を外した。一心不乱で花京院に襲い掛かる。 何よりも大事なのだ。かけがえのないものなのだ。そのためには罪をも犯す。 涙を流し、喚き、剣を振るった。しかし、花京院にはそれでも当たらなかった。 かすりもしなかった。 「おいおい、当たってあげたらどうなんだ?」 「断る。貴様の思い通りにはならない」 「聞いたか? お前たちの姉がどうなってもいいんだとよ。ほら、早く殺してしまえ」 モットはそういうが、花京院は軽々と避けていく。少年たちは何度も当たってくれと泣き叫んだ。 やがて時間が進み、ろうが溶けきろうとしていた。そのときになって、ようやく花京院は己の足を止めた。 「観念したようだぞ! はやくやれ!」 女の家族たちは武器を握り締め、彼を囲んだ。にげようとしなくなったので心の火が急速に勢いを弱めたようだった。 「ほらほら時間がないぞ。早くしないか」 憎い男の声がした。できることならあの人物を切り刻みたい。みなそう思っていた。 しかし、できない。無力であるから、力がないから言われたとおりにするしかない。 じりじりと、女の弟である少年が花京院に近寄っていった。ナイフの切っ先を向ける。 「――ごめん」 少年のナイフは当たるどころかかすりもしなかった。花京院はすっと彼を避けて歩みだした。拍子抜けしたモットだったが、すぐに水を花京院の目の前に突き出した。 「なんのつもりだ? この女がどうなってもいいのか?」 「いや、よくない」 「なら後ろに下がれ。下がって狩られろ!」 「それはやめておく。痛いのは嫌だ」 「ふざけてるのか!」 「ふざけてない。僕は、たんに貴様の思い通りになるのが嫌なのだ。貴様みたいな小物に従わせられることが。誇りがあるからな」 「誇りだあ? お前みたいな平民がなにを言っているのか。そんなものを口にしていいのは貴族だけだ。俺のような、魔法を使えるメイジだけだ!」 花京院は笑った。 「なにがおかしい」 「おかしいさ。こんなことをしておいて、まだ自分に誇りなんてものがあると思い込んでいるんだからな」 馬鹿にした笑いだった。見下された笑いだった。 それはモットの怒りに薪を注ぎ足す行為だった。 「もう……もういい。お前たちは、泣け。泣き喚け。絶望に身をよじろおおおお!」 花京院の眼前にあった水がモットに飛び掛った。それは女を、身動きのできぬ女を狙ったものだった。 刃はやすやすと肉を突き刺した。 「なあ、なあああああ、なんんでえええ水が俺を刺したんだよおおおおおおおお!」 モットの手から杖が落ち、彼の身体を突き刺していた水は形を成さずに地面に流れた。押さえが外れたためその上に血が流れ落ちる。 人質になっていた女は、モット自身が直前に放したので無事だった。花京院は彼女を抱えて少年たちに向かって歩いていった。 そして大柄な体格をしたもの、恐らく父親に渡した。 「さて、おまえをどうするかだが、どうなりたい。モット」 「ひ、ひぎいい、痛いんだ。痛いんだよおお。な、治してくれええ。杖を取ってくれるだけでもいいからよおおおお」 「そうか助かりたいか」 花京院はモットのところに戻った。 「何も知らないままではかわいそうだ。せめてもの情け、どうして水がお前を突き刺したか、それぐらいは教えてやる。僕のスタンド、法王の緑は紐状になることができる。そして人の身体の中に侵入して操ることができる。僕はお前の意識だけを残し、身体を操った。 さて、それで、これからどうすると思う?」 「た、助けて、助けてくださいいいい。いのち、命だけは、命だけはああ……」 「お前はいままでそう懇願してきたものを助けてきたか?」 いいや、痛めつけて悲鳴を奏でさせた。 「や、やめて、やめて、やめてくれえええ」 「だめだね」 花京院はモットに背を向けた。 「絶望に身をよじり、死ね」 言葉が終わると、モットの中で何かが切れた。彼の人生はここで終結した。 花京院のもとに少年がやってきた。痣だらけの顔には、またしても涙が流れていた。だけど言葉は、生まれてこなかった。謝罪をするべきだ。 礼を言うべきだ。 でも、彼の口からは何も出てこなかった。 「俺、俺……」 花京院は布を当てる。 「その顔、君はあの男に殴られたものだろう?」 縦にうなずいた。片目がつぶれていて腕や足にも傷がついている。 「よくやった。敵わなかったが、それでも君は、この『世界』と戦ったんだ。 誇りに思えばいい。貴族でもないし、魔法も使えないけれども、君は立派だよ」 「……」 「それじゃあね。僕はあの人のところにいかないといけない。今回は駄目だったかもしれないけど、生き残ったんだ。次こそ、いつか危ない目にまたあったとき、守ってやればいい。がんばれ」 「……がんばる」 ぽんぽんと少年の頭を叩き、二人は別れた。 ワルドは改めて杖を構える。花京院とモットは少し離れたところで戦いを始めていた。 「さて、お前の頼みの綱は切れたぞ。フーケよ、まだ下らんか」 「当たり前じゃないか!」 マチルダは地面の土を蹴り上げた。それは魔法で鋭利な刃と化しワルドを襲った。 不意を突いたおかげでいくつか掠めるが軽傷だ。 勢いと重量が足らない。 「どこまで刃向かうつもりだ?」 「そうさね。どこまでもか、ね」 風の拳に殴られる。胃液を吐く。血が出ないことから内臓は大丈夫のはずだ。 打撲ぐらいにはなってたりするかもしれなかったが。 ワルドが近寄り、マチルダを見下ろした。感情のこもっていない瞳。 「お前は、なぜ頑なに拒否をするのだ」 「わからないのかい?」 マチルダは立ち上がる。ふう、ふう、と、荒い呼吸を繰り返す。全身から血が流れ、顔も土に塗れている。圧倒的な敗北、それを前にしている。それでもなお、彼女は以前戦った少年のように強く気高い視線を向けた。 「あんたってさあ、一つのためになりふりかまわず、どんなことでもするでしょう。 どんな汚いことでも、ね」 「ああ。もちろん」 マチルダは笑う。 「だからさ。こんな盗人で、どうしようもないあたしだけど、大切なもんがあるんだよ。 もし、あんたたちに与して、そういうことをして、そこそこの地位を得て、金を得たところで、その大切なもんはきっとあたしから遠ざかっていくんだよ。だから、あんたの仲間になっちゃいけないのさ。だから、あんたたちに――」 マチルダは後ろに下がった。 「負けやしないんだよ!」 杖を振り魔法を使う。その呼びかけに応じ、彼女の足元から大型のゴーレムが生まれ出てきた。 「ふん。くだらん感傷だ。マチルダ、お前には失望した」 「結構だね! やっておしまい!」 命令を受け、ゴーレムは腕を振るった。木々をなぎ倒しワルドを狙う。だがその質量のため動きは遅い。ワルドも風の扱いは一流、蝶のように避け魔法を放つ。それは直撃しないもののマチルダに新たな傷を作っていく。 さらにワルドの遍在も四体に戻り、彼女をペンタゴンのように囲んでしまう。 逃げ場所は、ない。 「まずはその煩わしいゴーレムからだ!」 五人のワルドが同時に魔法を放った。五つの風がゴーレムに食らいかかり巨体を揺らす。破壊力を逸らすこともできず、ゴーレムは粉みじんに砕け散る。土が地面へ降り注いだ。 ワルドはここで気づいた。マチルダがいない。彼女はゴーレムの破壊に乗じてその身を隠したようである。 逃げた、わけではない。土を被り息を殺しているのだろう。ワルドの顔に笑みが浮かんだ。心底滑稽だといわんばかりの。 彼は魔法を使った。風が周囲の土を巻き上げていく。マチルダごと巻き上げてしまいそうな暴風だった、が、彼女は地面に蟻のように張り付いていた。 「無様だな。マチルダよ」 そう言ってワルドは歩み寄る。マチルダはうつぶせになって睨み上げていた。 その瞳にまだ諦めはない。用心をする。 「なにか、まだあるのか?」 ワルドがすぐそばに近寄り、見下ろした。瞬間、マチルダは身体を捻りワルドの身体を剣で切り上げた。錬金で作り上げた剣を地面に埋もれさせていたのだ。 しかし、 「惜しいな。それも遍在だ」 そう言い、ワルドはマチルダの腕を剣杖で貫いた。 「ああ、あああああ!」 「ふむ、妙齢の女の悲鳴か。モットが喜びそうだが、俺にとってはただうるさいだけだ」 マチルダの腹を踏んだ。彼女は息がつまり、悲鳴も止んだ。 ワルドは杖を引き抜いた。 「さて、最期の勧誘だ。レコン・キスタに入れ」 勝敗は決した。兎が虎に勝てぬように、トライアングルはスクウェアには何があろうと勝てはしないのだ。 ワルドはそう思っていた。 マチルダは見上げた。 「あんた、あんたが――………」 「聞こえん。大きな声で言え」 マチルダはつばを飲んだ。 「………あんたが、やったんだ」 「はあ?」 「不思議に、思わないかい?」 「なにをいっている……」 ワルドは気づいた。この最期のときにおいて、マチルダの瞳に絶望というものがないということを。 マチルダは続けた。 「あんたが巻き上げた土。あれは、どこに――」 ワルドは聞けなかった。己の絶叫と、痛みで。 彼の肩に一本の剣が突き刺さっていた。杖が落ちる。 「――な、なんだこれは!」 続けて遍在にも剣が突き刺さり、消えていった。ワルドは上空を睨んだ。空には、信じがたい光景が広がっていた。 剣、ナイフ、それが宙に浮いていた。種類はそれだけだ。だがその数は、空を覆わんばかり。 それほどの無数の刃が彼らに向けて落ちてきていた。 「は、はは、さしずめ『ソード・レイン』っていったところかね」 ワルドはこの土がどこから出てきたのか、すぐに勘付いた。 「貴様、俺が巻き上げた土に錬金を――」 「正解。あたしの風だけじゃ心もとなかったからね。あんたのを利用させてもらった、よ!」 懐のナイフでワルドの足を刺した。 「逃がしはしない。この雨を、受けきりな!」 「よせ! 剣を変えろ! お前も死ぬぞ!」 「それもいいんじゃないかい?」 「そんな! そんな馬鹿な! この俺が、こんなところで――」 ワルドの声が途絶えた。喉を貫かれたからだ。さらに続けて全身を刃が貫く。 剣と血の雨が降った。 マチルダはワルドを蹴っ飛ばした。 彼女の身体には無数の傷がつけられていたが、大きなものは一つもなかった。 自身が作り上げた剣やナイフは当たりはしたが、深くはならなかったのだ。これは運がよかったというのではなく、盾を使ったからだ。 ワルドという肉の盾を。 もはや物言わぬ死体を見下ろし、マチルダは呟いた。 「こういうとき、なんていうのかね」 「正義は勝つ、でいいのでは?」 その声に振り向くと、花京院が立っていた。満身創痍のマチルダと対照的に無傷である。完勝したようであった。 「そっちはどうだったい?」 「少々疲れました」 「あたしはもう動けないぐらいだよ」 花京院が手を差し出した。マチルダはちょっと考えたものの、土と血で汚れたままの腕を差し出した。そのとき、花京院は予想外の行動に出た。 「ちょちょ、ちょっと!」 「どうしました?」 「どうしましたじゃないよ! なんでかかえる必要があるのさ!」 その通り、花京院はマチルダを立たせたのではなく俗に言うお姫様抱っこをしたのだ。 二十を過ぎてこんなことをされては彼女も恥ずかしい。だが、いくら叫んでも彼は彼女を降ろそうとはしない。 「動けないっていったのはあなたじゃないですか」 「それはそうだけど、あたしゃいい年だよ。ちょっとキツイ……」 「我慢してください」 やがてマチルダも体力がないので暴れることをやめ、花京院に身を預けることにした。 しかし、最期に一つ。 「あたしなりの敬意だよ」 魔法を使い、ワルドの体を土に埋めた。墓標はない。 「ああ、もうこれでスッカラカンだ。とりあえず眠るから、説明は頼むわ」 「わかりました」 マチルダは花京院の首に顔をうずめ、静かに眠りについた。
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作者:1スレ目 448 銭形「むわてぇ~ルパ~ン!」 ルパン「し~つこいねえとっつぁんもよ」 銭形「ワシから逃げられると思ったら大間違いだぞぉう!」 ルパン「たまにゃあお休みしてもいいんでないの?」 銭形「そんなわけにいくかバッカモ~ン!」 ルパン「そうだよなぁ」 ルパン「……真紅、しっかりつかまってろよ!」 真紅「なんなの!? あの下品な男は!」 ルパン「お~いおい、下品って言い方は良くないと思うぜ?」 真紅「それにルパン。何故貴方は追われているの? 教えて頂戴」 ルパン「そりゃあ俺が……」 真紅「貴方が?」 ルパン「泥棒だからさ」 チャ~ラッチャラ~♪チャ~ラ~ラ~♪ 真紅「きゃあっ!?」 ルパン「喋るなよ! 舌ぁ噛むぞ!」 銭形「むわてルパン! 逃げるな~!」 ルパン「待てって言われて、待つわきゃないでしょうが!」 チャ~ラッチャラ~♪チャッチャラッチャ~♪ ルパン「まずい! 道が途切れてやがる!」 真紅「……どうやら、鬼ごっこはおしまいのようね」 銭形「ぬふふふふ! どうやらお前も年貢の納め時らしいな!」 ルパン「……」 ルパン「そいつぁどうかな?」 ブルルルルルンッ! チャラララ~♪チャ~ララ~ラ~♪ 銭形「速度を上げただとぉう!?」 真紅「どうするつもり!?」 ルパン「……」 チャララ~ラ…ルパ~ンザサ~ド♪ ルパン「そりゃあ……」 ルパン「とぶに決まってるだろ?」 真紅「とぶ、って……」 ルパ~ンザサ~~~ド♪ ブルルルルンッ! 真紅「きゃああああっ!?」 ルパン「ひゃっほーーい!」 チャララッ、チャラッ、チャラッ、チャッチャラッチャン♪ (タイプライターの音で文字が流れると思いねえ) ル・パ・ン・三・世・外・伝 真・紅・の・薔・薇・乙・女 チャララ~ン♪ 「ルパン三世 真紅の薔薇乙女」 チャランチャランチャランチャンチャンチャン♪ 真紅「全く、信じられないわ!」 ルパン「おいおい、そ~んなに怒るなってぇ真紅」 真紅「いいえ、言わせてもらうわ!」 ルパン「へいへい。なんでございますか?」 真紅「いい? 私は誇り高きローゼンメイデン第五ドールの真紅。 本来なら、貴方のような野蛮な人間にネジを巻かれるような存在ではないの」 ルパン「野蛮な人間だって? こんな紳士を捕まえて」 真紅「ルパン。貴方、泥棒なのでしょう?」 ルパン「ああ、そうだぜ。天下の大泥棒、ルパン三世たぁ俺のことさ」 真紅「泥棒なんて……汚らわしい」 ルパン「そりゃないぜ真紅~。そもそもよ~お、 俺が博物館からお前さんを盗み出さなかったら、今ここで俺とおしゃべるする事も無かったんだぜ?」 真紅「泥棒にネジを巻かれる位なら、眠っていた方がマシだわ」 ルパン「あらら! そりゃちょっと言いすぎなんじゃない?」 真紅「いいえ。これでも言い足りない位よ」 ルパン「……へいへい、悪ぅござんしたね」 真紅「それに貴方の言葉遣い。それで本当に紳士のつもりかしら?」 ルパン「喋りかたってなぁ、この喋り方かい?」 真紅「そうよ。粗野で下品ね」 ルパン「……」 ルパン「これは失礼しました真紅お嬢様」 真紅「えっ?」 ルパン「私めの言葉遣いがお気に召しませんようでしたので」 真紅「……貴方、私を馬鹿にしているの?」 ルパン「お、お~いおい! 俺がせっ……っかく丁寧に喋ってるってのによ」 真紅「そうね。悪かったわ」 ルパン「それじゃあ……」 真紅「今さら口調を変えられても、気味が悪いだけだもの」 ルパン「……」 ルパン(気味が悪いのはな真紅、お前さんの方だぜ) ルパン(誰かが操ってる様子もねえのに、人形が動いて喋ってやがるなんてな) 真紅「聞いているの?」 ルパン「あ、はいはい! 勿論聞いてますよ~!」 ルパン(……しかし、どうやら噂は本当だったみたいだな) ルパン(人形愛好家の間ではまことしやかにささやかれている噂……) ルパン(……ローゼンメイデン) ルパン(なんでもその昔、ローゼンっていう人形師が作ったってぇ代物らしいが、 どうやって動いてるのかサ~ッパリわからねえ) ルパン(その原理がわかればいいが……) 真紅「ルパン。今すぐ泥棒なんてやめなさい」 ルパン「はぁ」 ルパン(わからねえなら、ただ口うるさいだけで一銭の価値もねえ) ルパン(なぁ~んで俺はあん時ネジを巻いちまったんだろうな、トホホ) 真紅「はぁ、ではないわ。いい? 泥棒からは足を洗うのよ」 ルパン「……はぁ」 ルパン「なあ真紅、ちょっとばかし質問してもいいかい?」 真紅「何?」 ルパン「お前さんが動いてる原理を知りたいんだがよ、 教えてもらっちゃったりなんかしてくれるかな?」 真紅「そんな事を聞いてどうするつもり?」 ルパン「いや、なに。ただの興味本位ってやつさ」 真紅「……そうね。隠すことでもないし、 貴方は下品だけれど、“一応”私のネジを巻いたのだもの」 ルパン「……へいへい、わぁってますよお嬢様」 真紅「私が動いているのは……ローザミスティカがあるからよ」 ルパン「ローザミスティカ? なんだいそいつぁ」 真紅「そうね、貴方達人間で言えば魂にあたる部分とでも思えば良いわ」 ルパン「……なるほど」 ルパン(人形に魂だって?) ルパン(……こいつぁすんげえお宝の匂いがするじゃあねえか) ルパン(俺ぁてっきりコイツが何かの仕掛けで動いてると思ってたが、 軽く調べてみただけじゃその仕掛けがサッパリわからなかった) ルパン(それもそのはずだぜ。さっきの言葉を信じるとするなら、 コイツは、真紅は“魂”でもって動いてるっていうんだからな) ルパン(……つまり、ローゼンは……) ルパン(……) ルパン(……魂を……“命”を創り出す事に成功してたってぇ事だ) ルパン(人形師ローゼン。あんたは本当はただの人形作り屋じゃなかった) ルパン(……優秀な、それもとっびっきり優秀な錬金術師だったってぇ訳だ) ルパン「……」 真紅「? どうしたのルパン。突然黙り込んで」 ルパン「ん? あ、アハハハハハ! 別になんでもねぇさ!」 真紅「そう。それならいいのだけれど」 ルパン「……」 ルパン「……なんでも、な」 ルパン「……なぁ、もう一つだけ質問してもいいかい?」 真紅「今日はもう休みたいのだけど」 ルパン「そこをなんとか! おねがい!」 真紅「……まあいいわ。何かしら?」 ルパン「サァ~ンキュ~真紅! さぁっすが、話がわかる!」 真紅「おだてても無駄よ。質問は一つだけにして頂戴」 ルパン「ああ、一つだけで十分さ」 真紅「何が聞きたいの?」 ルパン「……」 ルパン「……なぁに、お前さん“達”が作られた目的ってぇのが知りたくてな」 真紅「私達が作られた目的?」 ルパン「そうさ。何の目的もなしに、こ~んなカワイコちゃん達に 魂をわけあたえる奴なんているとは思えないんでね」 真紅「……そうね。話しておこうかしら」 ルパン「……」 ルパン(どうやら、アイツは寝たみたいだな) ルパン(しっかし、人形とはいえカバンを寝床にするたぁ変わってるぜ) ルパン「……」 ルパン「……究極の少女、アリス……か」 ルパン(第五ドールって言うから他にも魂を持った人形、ローゼンメイデンがいるとは思ってたが、 ……そんなもんが目的だったとはね) ルパン(それにどうやら、真紅達ローゼンメイデンも ローザミスティカの作り方がわからねぇみたいだしよ) ルパン「……やれやれ」 ルパン(……取り出し方は、アリスゲームで敗れた時) ルパン(ローザミスティカを奪われたドールは抜け殻になる、ねぇ……) ルパン「……」 ルパン「こいつぁ、面倒なヤマ引き当てちまったみたいだな」 翌朝 ルパン「すぴぃ~っ……ぷひゅるるるる……」 真紅「起きなさいルパン。何時だと思っているの?」 ルパン「くかぁ~~~っ……ひゅぅぅぅ……」 真紅「起きなさい。真っ当な人間は、既に起きている時間よ」 ルパン「……ん」 真紅「起きた?」 ルパン「……ヌフフフ……不二子ちゅわぁ~ん……」 がしっ! 真紅「!? は、離しなさい!」 ルパン「むちゅぅ~……」 真紅「……くっ!」 ゴスッ! ルパン「んげっ!?」 真紅「起きたかしら?」 ルパン「……ぬ、ぬわぁ~にすんでぇこんな朝っぱらから!」 真紅「ルパン」 ルパン「……あんだよ?」 真紅「紅茶を煎れて頂戴」 ルパン「……ほれよ」 真紅「ありがとう」 ルパン「へいへい、ど~いたしまして」 真紅「何か言いたげね」 ルパン「いんやぁ、べ~つになんでもございませんよ、ええ」 真紅「ならその不機嫌顔はやめなさい。見ていて気持ちの良いものではないから」 ルパン「……けっ!」 真紅「……コク……コク…………あら」 ルパン「なんだい? 俺の煎れた紅茶じゃあ駄目だったかな?」 真紅「……美味しいわ」ホワッ ルパン「……」 真紅「? 何? そんなにジロジロ見て」 ルパン「……いいや、ちょっとばかし見とれてただけさ」 真紅「そ、そう」 ルパン「いや~、怒った顔以外も出来るんだなぁ」 真紅「っ! それは貴方が怒らせるような事をするからでしょう!?」 ルパン(それにしても驚いたな) ルパン(紅茶を楽しむってこたぁ、味覚も嗅覚もあるって事だ) ルパン(今までの行動を見るに、五感は全てもってるな) 真紅「何か考え事でもしているようね」 ルパン「あ、アハハハハ、ハ!……なぁ~んでわかったのかな?」 真紅「勘よ」 ルパン「……」 ルパン(勘ときたか。どうやら、第六感までそなえてるらしい) ルパン(知れば知るほどこいつがすげぇもんだってのがわかる) ルパン「……」 ルパン(人形師ローゼン。あんたが求めた究極の少女ってなぁなんだ?) ルパン(こんなすげえ“命”を作り出して、戦わせて……) ルパン(……求めるようなもんなのか?) 真紅「……ルパン、貴方は考え事する癖があるようね」 ルパンザサ~~~……(コケリン)ありっ? CMへ
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鏡の世界は左右対称で、生き物は『許可』しないかぎり一匹たりとも存在しないが、それ以外は非常に忠実に外の世界を再現する。 爆発音についでルイズの声(なんか怒ったような調子で俺を呼んでいた)、少なからず危険を感じたオレは とりあえず鏡の中から『外』の様子を推測してみる事にした。(ビビってるんじゃない、慎重なんだ。) 生き物(主に人間だな)が映らなくとも、その気配を探るのは割りと簡単な事だ。 人が歩く時、そいつが特に気を使わなければ、荷物は空中を移動し、絨毯は撓み、ドアはひとりでに開く。 (鏡の世界になれていない奴が見ると、相当に気持ちの悪い光景だ) もっと注意してみれば埃の舞い上がる様子だとか。どれぐらいの人数がどちらへ移動するか、大体ならばわかるのだ。 無残に吹っ飛ばされたドアから、大人数が出て行く感じがある。 ふうん、授業だとか言ってたかな、あのハゲ。ここは学校なのだろうか。 慎重に『教室』と思われる部屋を覗き込む。確かに大学なんかの講義室に似ている・・・・が、 机や椅子は派手に吹っ飛び、窓ガラスは割れ、酷い有様だ。やはり爆発か? 爆発だとしたら、鏡の中でも危険だな。 『物体』はこちらの世界でも変わらず動く。 ラリッた野郎がナイフを振り回したり銃を乱射したりすれば、それらは俺に当たるんだ。 勿論半端なモンならマン・イン・ザ・ミラーで叩き落とせる。パワーは無いが、鏡の中はコイツの世界だ。 オレはどんなに頑張ったってティッシュボックス一つ動かせはしない。が、 正反対に『マン・イン・ザ・ミラー』は、全てを動かす権利を持っている。 (『許可』して引き込んだものはその限りじゃあないんだが。『鏡に映ったもの』だけが、マン・イン・ザ・ミラーの自由になる。) だが爆発ってのは突然だし、思いもしないもんがスッ飛んで来るじゃあないか。 咄嗟に破片を防いでも、衝撃で後ろから本棚なんか倒れてきたら笑えもしないし 大体弾が出るモノは銃の形をしているが、爆発するものは爆弾の形をしていない方が多いだろ。心構えが出来ない。 『マン・イン・ザ・ミラー』はそんなに素早い動きは出来ないからな・・・・ 『熱風』なんかが無い分やっぱり『こっちの世界』の方が安全なんだが、それでも危険なのに間違いは無かった。 恐る恐る周囲の状況を探る・・・・オレを守れよ、『マン・イン・ザ・ミラー』・・・・何が爆発したんだ・・・・? 「おっと。」 足元で何かが動く・・・・塵取り?塵取りと箒だ。無駄の多い動きでガラス片を集めている。 ――――『罰掃除ですか?そんな・・・・』 『こっち側』へ引っ込む前に聞いた言葉を思い出す。 という事は、ここにルイズが居るって事か?掃除を? (罰掃除・・・・って事は、この爆発はルイズのせいなのか。) それなら原因なんか探す必要も無い。爆発物は『ルイズ』だ!『ルイズのスタンド』だッ! スタンド使いを前にして大切な事は、『よく考える事』だ。 スタンドって言うのは考えれば考えるほど色んな事が出来て、色んな事が出来ない。 自分は何をすべきか、相手は何が出来るのか、考える事が『大切』―――― ルイズのスタンドは(『なんとか・サーヴァント』ってやつ)動物を連れてくるって言っていたな。 爆発なんて、言っていなかった。隠していたのだろうか? 昨日の会話を思い出し、推測し、結論を出すべきだ・・・・『爆発する』『それを隠していた』事を踏まえて・・・・ ――――あたしは猫とか梟とか、出来たらドラゴンとかが良かったの! 動物を呼び出してどうするんだ?大体何に使うんだ 動物のがマシよッ!アンタみたいに口答えしないでしょ ――――『サモン・サーヴァント』は召還するだけで、帰すなんて出来ないわ ――――それに出来たってね、帰しやしないわ。あんたは私の使い魔だもの。あたしの―――― あ、あたしの・・・・何だって・・・・これは、これはッ! 恐ろしい仮説が成り立つッ!『サモン・サーヴァント』・・・・不自然な所の!説明がつくッ! 『それに出来たってね、帰しやしないわ・・・・あんたはあたしの――――爆弾だもの。』 こ、こういうことじゃあ、ないのかッ?! 『何処かから生き物を呼び出し、そいつを爆弾に変える』もしくは『爆弾を取り付ける』・・・・凶悪な能力だ。 呼び出された動物が勝手にうろつくのを利用して、離れたところでドカン!か? 『動物がいい』のは『口答えしないから』。確かに人間だと面倒くさい。説明が無いのもうなづける。 こんにちは、イルーゾォ。早速だけどあなた、もうじき爆発するから――――なんて言われたら、俺はすぐさまあいつを殺すだろう。 だとすれば、どうする?オレはもうルイズのスタンド攻撃を受けている!『まだ爆発していない』ことは確かだが・・・・いつだ? 『爆弾をとりつける』ってんなら、オレはもう安心だ。『マン・イン・ザ・ミラー』はオレしか許可しなかった・・・・ 知らず知らずのうちに取り付けられた『爆弾のスタンド』は、鏡の外に置き去りにされたはずだ。 だが、もうひとつ可能性がある。『オレ自身が、爆弾になっている』、十分にありうる!(スタンド能力ってのは、理屈なんかお構いなしだからな。) 鏡を通り抜ける時、違和感が無かった。無い、『それこそ違和感』だッ。後者のほうが、後者のほうが可能性が高いんじゃあないか? その場合、ヤバい。物凄くヤバい。いつ爆発するかさっぱりわからないぞ・・・・どうする?オレは?何かきっかけがある筈だ・・・・ (怖がってる時間は無い!冷静に考えるんだ、イルーゾォ・・・・おまえは暗殺者だ!) そうだ、さっきルイズの奴。なんて言った? イルーゾォは何処なのよ、だ。居なくなったオレの事を気にしていた。そりゃあ爆弾なんだから、危険なものだから気にはするだろう。 だが、その危険なものがさっき、ルイズの近くで爆発していた! でかい爆発なら本体も危険。遠距離がいい。『爆弾の動物』を遠くまで歩かせて、爆発させるのが。それが何故だ? 無理矢理になるが・・・・一つ可能性をあげるならば、『爆発は近くでしか起きない』だ。 勿論そんなのはおかしい。近くで物が爆発するスタンドなんて危険で仕方ないからな。 しかしそこで、『イルーゾォは何処』、だ。仮に『近くで爆発する』なら、近くに居ないオレの事を気にする必要があるか? そう、そうだ・・・爆発は『近く』じゃない、『見えるところ』で起こる! ルイズが視認する限りッ!ルイズが、『爆弾に変えた生き物』は『爆発させることが出来る』!! こ、これで間違いないはずだ、『サモン・サーヴァント』の能力・・・・仮説は間違ってないはずだッ (注:根本から間違っています) う、うあああああああ・・・・『ルイズにサモン・サーヴァントについて聞こう』だなんて・・・・俺は恐ろしい事を考えていた。 そんなもん聞いたら十中八九、消し飛ばされる!危ない、危ないところだったぞ・・・・ しかし、逆に考えると、俺の『マン・イン・ザ・ミラー』の能力ならルイズから隠れきる事が出来る。 ありがとう、『マン・イン・ザ・ミラー』。お前のお陰でオレは大丈夫だ! しかしそんな危険なスタンド使いの『爆発』にビビらず、しかも『罰掃除』なんか言いつける奴が居るって事は、 どうやらこの学校、スタンド使いだらけらしい。(なんて事だ!) スタンド使いだらけのギャング組織だってあるし、スタンド使いだらけの学校があっても不思議じゃあないな。 って事は勿論、幹部に当たる『教師』も、ボスの『校長』も、まとめて殆どスタンド使いで、ルイズよりも『格上』・・・・ッ! 畜生!どうすればいい・・・・味方は居るのか?オレは、オレはどうやって帰ったらいいんだ! 唯一つ確かなのは、『鏡の中は安全』・・・・それだけ! オレは『此処からでちゃあならない』!めったな事が無い限りッ!